おそろし 三島屋変調百物語事始

物語、語ることによる鎮魂のはなし。

時代物なんだけど、真に迫る感じがあっておもしろかった。

所々にはっとする文章があって、さすが。

 

「さても面妖なお話だよね。夢見が悪くなりそうだけれど、でも、怖いというよりは、あわれだねぇ」

「――お彩さんですか」

「いえいえ、違うよ」お民は掌をひらひらさせた。「姉弟の間柄におかしな疑いをかけたと濡れ衣を着せられて、挙げ句に命を落としたっていう、古参の奉公人さ」

宗助のことだ。

「死んでからも、お店を案じて亡者になって現れたんだろう?だのに、その後のことがまったく語られていないよね」

言われてみれば、そうである。

「お福さんて人の言うとおり、亡者がここにいるんだとしても」と、お民はぽんと胸を叩いた。

「どんな忠義者でも、所詮は奉公人。用が済んだら、誰も気にかけてくれないんだね。いても、いないのと同じだ。あたしには、その方がよっぽど哀れで悲しく思えますよ」